これからの不動産市場を予測する
2022年は、岸田政権による新しい資本主義の推進、コロナウィルス感染拡大、ウクライナ情勢による物価高騰、貿易赤字などによる円安など、まさに激動の年だったといえるしょう。
今回のコラムでは、2022年に起きたさまざまな事案を一つひとつ読み解きながら、不動産市場にどんな影響を与え、今後どうなっていくのかを推察していきます。
※当記事には、政策による不動産業界への影響について記載しておりますが、いかなる政党・政策を支持するものではありません。
目次[非表示]
①「新しい資本主義」が不動産市場に与える影響とは
2022年7月に参議院選挙が行われ、自民党が63議席を獲得しました。今後は岸田政権の進める「新しい資本主義」などの政策もより推進されると私は考えています。
「新しい資本主義」の具体策では、国民の預貯金を投資に振り向けることで経済活性化を図る「資産所得倍増プラン」を掲げており、“貯蓄から投資への移行”を強めるため、NISAの拡充やiDeCo制度改革が柱としてプランに盛り込まれています。
「新しい資本主義」によるさまざまな施策が成功し、多くの人の所得が上がれば、先述のように“貯蓄から投資への移行”に目を向ける人々も増え、国内の投資人口が増加すると推測します。
投資人口が増えれば、不動産投資家も比例して増えてくるのではないでしょうか。
なぜなら不動産投資は、他の金融商品よりも比較的リスクが少なく、金融機関の審査をクリアできれば融資を受けて物件を購入することができるため、自己資金が少なくても始められるという特徴があるからです。
“貯蓄から投資へ移行”が進み、それに伴い不動産投資を試みる人口が増え、ひいては不動産市場の活性化につながってくるのではないでしょうか。
②所得上昇に伴う家賃上昇の可能性
今後、「新しい資本主義」において、雇用の充実、所得水準の引き上げが推進されており、実際昨年の春闘においても鉄鋼業界を始め、20業種のうち14業種と多くの業界が前年の賃上げ率を上回り、ベースアップを実現しています。(厚生労働省プレスリリース2022年8月5日発「令和4年民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況を公表します」より)
筆者としては、今回、ベースアップしなかった企業の社員の給料がアップされれば、賃貸住宅の家賃上昇も十分可能性があると考えます。
③地価・建築コストの上昇から見るマンション価格の行方
不動産市場も他の業種同様に、新型コロナウィルス感染拡大やウクライナ情勢の影響を少なからず受けています。地価と建築コストの観点から、マンション価格について考察します。
地価の上昇からみるマンション価格
地価動向については、新型コロナウィルス感染拡大前まで東京中心部などを始めとして地価上昇が続いていました。新型コロナウィルス感染拡大後は地価下落していますが、2022年1月1日現在では地価は上昇に転じています。(※1)
(※1)出典:国土交通省「2022年地価公示」
数年の動きを踏まえ、地価上昇については新型コロナウィルスの影響はあったが、経済の成長率に順応した穏やかな上昇が予想されます。
但し、新型コロナウィルス感染拡大前に大きく地価が上昇し、新型コロナウィルス感染拡大により大きく下がったエリアの中では、インバウンドの復活などにより大きくリバウンドする可能性もあるかと私は考えます。
建築コストの上昇からみるマンション価格
ウクライナ情勢も日々緊迫したニュースが飛び込んできており、未だに終戦を迎えてはおりません。これが大きな要因となり、原材料価格・エネルギー価格が高止まりし、飲食料品はもとより鉄鋼、金属製品、化学製品、石油・石炭製品などの価格も上昇。そこに円安が拍車をかけ、国内物価・企業物価を押し上げています。(2022年11月現在)
ところが、物価が上昇してもそれがすぐにマンションの価格に影響する訳ではなく、そこには時間差が生じるのではないでしょうか。
なぜなら、現在販売しているマンションに比べ、これから建設されるマンションは国内物価・企業物価が上昇した価格で発注されるため、建築費を代表にさまざまな費用が高くなります。そういった高くなった物価で造られることになったマンションが販売されるようになると、マンション価格を上げざるを得ない状況になるでしょう。
現状の物価上昇を鑑みると、今後販売されるマンションは値上がりしていく可能性があると考えます。
④2022年の最新年金事情と高まる投資への関心
年金だけでなく自助努力による資産形成が叫ばれて久しく感じますが、昨今では仮想通貨の登場もあり資産形成の方法は多種多様となりました。近年の年金事情とあわせて、不動産投資の特性について解説いたします。
物価上昇に追い打ちをかける年金の減少
物価が上昇しているにも関わらず2022年4月から年金が減少しており、年金受給者の明細には「0.4%減額改定となります」と明記されていました。
【「令和4年度(2022年度)の年金額は減額」と記載されている年金明細書】
※オフィス野中のスタッフによる実際の年金明細書の撮影画像
物価も上昇している中、将来への備えがより一層重要となってきています。
内閣府が2022年6月に発表した「令和4年版 高齢社会白書」によると、65歳以上の人口割合は1960年だとわずか約5.7%でしたが、1980年に約9.0%、2000年には倍に近い約17.3%となり、2021年には倍以上の約28.8%となっています。(※2)
【年代別 65歳以上の人口割合】
(※2)出典:「令和4年版 高齢社会白書」 図1-1-2 高齢化の推移と将来推計
(※2)について
資料:棒グラフと実線の高齢化率については、2020年までは総務省「国勢調査」(2015年及び2020年は不詳補完値による。)、2021年は総務省「人 口推計」(令和3年10月1日現在(令和2年国勢調査を基準とする推計値))、2025年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来 推計人口(平成29年推計)」の出生中位・死亡中位仮定による推計結果
(注1) 2015年及び2020年の年齢階級別人口は不詳補完値によるため、年齢不詳は存在しない。2021年の年齢階級別人口は、総務省統計局「令 和2年国勢調査」(不詳補完値)の人口に基づいて算出されていることから、年齢不詳は存在しない。2025年以降の年齢階級別人口は、 総務省統計局「平成27年国勢調査 年齢・国籍不詳をあん分した人口(参考表)」による年齢不詳をあん分した人口に基づいて算出され ていることから、年齢不詳は存在しない。なお、1950 ~2010年の高齢化率の算出には分母から年齢不詳を除いている。ただし、1950年 及び1955年において割合を算出する際には、(注 2)における沖縄県の一部の人口を不詳には含めないものとする。
(注2)沖縄県の昭和25年70歳以上の外国人136人(男55人、女81人)及び昭和30年70歳以上23,328人(男8,090人、女15,238人)は65~74歳、75 歳以上の人口から除き、不詳に含めている。
(注3)将来人口推計とは、基準時点までに得られた人口学的データに基づき、それまでの傾向、趨勢を将来に向けて投影するものである。基 準時点以降の構造的な変化等により、推計以降に得られる実績や新たな将来推計との間には乖離が生じ得るものであり、将来推計人口 はこのような実績等を踏まえて定期的に見直すこととしている。
(注4)四捨五入の関係で、足し合わせても100.0%にならない場合がある。
さらに、同白書の65歳以上の人の経済的な暮らし向きを見ると、【心配なく暮らしている】の合計が約68.5%と大半を占める一方、【心配である】と答えている人の合計が31.2%。3割以上が経済的な不安を感じている事になります。(※3)
【65歳以上の人の経済的な暮らし向き】
(※3)出典:「令和4年版高齢社会白書」 図1-2-1-1 65歳以上の人の経済的な暮らし向き
資料: 内閣府「高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査(令和3年度)」
(注1) 四捨五入の関係で、足し合わせても100.0%にならない場合がある。
(注2) 調査は60歳以上の男女を対象としているが、令和4年版高齢社会白書では、65歳以上の男女の集計結果を紹介する。
公的年金・恩給を受給している高齢者世帯のなかで「公的年金・恩給の総所得に占める割合が100%の世帯」は約48.4%と半数近くになり、さらに[80~100%未満]頼っている世帯が約12.5%、[60~80%未満]頼っている世帯が約14.5%と公的年金の割合が多い世帯が多くなっています。(※4)
【公的年金・恩給を受給している高齢者世帯】
公的年金・恩給の総所得に占める割合別世帯数の構成割合
(※4)出典:厚生労働省「国民生活基礎調査」(2019年) (同調査における2018年 1年間の所得)
資料:厚生労働省「国民生活基礎調査」(令和元年)(同調査における平成 30(2018)年 1年間の所得)
(注)四捨五入の関係で、足し合わせても100.0%にならない場合がある。
資産形成の重要性
こうした中、一層の自助努力も必要となってきており、高校の授業では「資産形成」に関する授業も始まっています。
資産形成をする上で投資を視野に入れる必要が出てくるわけですが、さまざまな投資商品の中で、不動産投資は会社員の方でも少ない自己資金で始めやすく、インフレにも比較的影響を受けにくい現物資産である事から注目を集めているようです。
不動産投資は、FX・株式などの投資よりも比較的リスクの少ない投資と私は考えます。また金融機関の融資を受けて不動産を購入できるため自己資金が少なくてもはじめやすく、投資初心者でも取り組みやすいというところが特徴です。
既に投資をはじめている方の中には、ポートフォリオの一角に不動産投資を加えている方も少なくないように感じます。入居者が付いている限り家賃収入を得続けることができ、タイミングさえよければ、購入価格よりも高値で売却できる可能性もあります。
不動産投資はあくまで資産形成手段の一例にすぎませんが、何かしらの投資で収入源を増やして、将来にしっかり備えることを考えておく時代になってきているのではないでしょうか。仕事による収入だけではなく、収入源を増やしていく考え方がこれからの時代に則していると私は考えます。
⑤テレワークと東京の人口移動状況は
新型コロナによるテレワークの普及などもあり、東京都の転入超過人口は2019年には8万人台でしたが2020年は3万人台、2021年5千人台と大きく減少してきました。(※5)
しかし2022年1~5月までの累計では、すでに約3万9,000人の転入超過となっています。これは既に2020年の年間累計を超えており、東京への人口移動が活発になってきている事を示しています。(※6)
【東京都の転入超過人口(2019~2021年)】
(※5)出典:「住民基本台帳人口移動報告 2021年結果」(総務省統計局2022年1月)(https://www.stat.go.jp/data/idou/2021np/jissu/pdf/gaiyou.pdf)
【東京都の転入超過人口(2022年)】
(※6)出典:「住民基本台帳人口移動報告 過去の月次別結果」(総務省統計局2022年1~5月)(https://www.stat.go.jp/data/idou/rireki/index.html)
※2020年1月に日本で最初の感染者が確認されたため、2020年1月以降をコロナ禍と表記しています。
近頃は、「withコロナ」の時代と変化しつつあり、テレワークが推奨されていた企業の働き方にも変化が出てきています。自動車メーカー大手の「ホンダ」が2022年5月からテレワークを取り止めたニュースも話題となりました。
東京都の実施している「テレワーク実施率調査」によると緊急事態宣言中であった2021年8月は約65%となるなど高いテレワーク実施率でしたが2022年4月から8月までは約50%台と縮小傾向になっています。(※7)
(※7)出典:東京都 テレワーク実施率調査 2022年8月の調査結果
東京都への転入超過数が増えれば、東京都の経済活性化、賃貸需要への影響も考えられます。
そうして、賃貸需要が高まれば、マンションの発売立地も都心を含めて多様化が進むのではないでしょうか。
投資用マンションの立地も、地価上昇とテレワークの普及などから「都心周辺部の交通利便性の高いエリアなどにシフトする」傾向がありましたが、今後は人口の都心回帰に合わせて都心型のワンルームマンションの賃貸需要もさらに増加する可能性もあると考えます。
【東京都の地価変動率の推移】の項目で記載したとおり、ワンルームマンション用地は駅近の利便性の高い立地が求められそのうえ地価も上昇傾向にあるため、土地供給が限定的になっていくのではないでしょうか。そういった背景から、2023年以降もワンルームマンションの資産価値も上昇が続く可能性があると考えます。
まとめ
不動産市場の活性化には、日本経済の活性化も大変重要になってきます。
新しい資本主義による政策と企業の成長・分配・好循環により景気が上向きになれば、多くの人の所得アップも期待できます。
所得が増えれば、結果として国内投資家の増加などにより、不動産市場が活性化、不動産価格・賃貸住宅の家賃上昇が見込めるのではないでしょうか。
実際、テレワーク実施率の減少や都心回帰で、東京への人口移動が活発になってきていることもあり、経済や不動産市場が活性し始めているかもしれません。
物価上昇や年金の減少という昨今の背景を考えると、資産形成の重要性は高まり、それと同時に「はじめやすい資産形成=不動産投資」の必要性も高まってくると私は考えられます。
著者紹介
野中 清志(のなか きよし)
株式会社オフィス野中 代表取締役 住宅コンサルタント
マンションデベロッパーを経て、2003年に株式会社オフィス野中を設立。
首都圏・関西および全国でマンション購入に関する講演多数。内容は居住用から資産運用向けセミナーなど、年間100本近く講演。
最近の主な著書・連載等
「売れる」「貸せる」マンション購入法 週刊住宅新聞社
「ワンルームマンション投資法」週刊住宅新聞社
「お金」見直し応援隊 日経BPセーフティジャパン(Web) 他多数
テレビ出演等
TOKYO MX TV他「ビジネス最前線 不動産による資産活用の今 」(2016年3月)
BS12〔TwellV(トゥウェルビ)〕「マンション投資 成功へのセオリー」(2014年12月)
「海外投資家も注目する東京の不動産」(2013年11月)
他ACT ON TV 等多数
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