2022年春以降の不動産投資市場の動向~不動産コンサルタントの見解~
2022年も、依然として新型コロナウィルスの影響が日本全国に蔓延しています。またオミクロン株が収束しないうちに、新たにBA.2というさらに脅威度を増した新型コロナウィルスが出現などという報道を耳にし、依然予断が許されない状況となっています。
そして、ロシアのウクライナ侵攻という社会に多大な影響を与える出来事が起き、株価の変動が激しくなっています。(2022年2月現在)。
そこで、2022年の春以降、不動産投資市場はどのような展望となるのかを考えてみたいと思います。
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2022年は「寅年」。過去の「寅年」を振り返って
2022年は「寅年」ですが、どのような年回りになるのでしょうか。過去にさかのぼって検証してみたいと思います。
筆者は1980年代始めから不動産業界に籍を置いてきましたが、前々回の「寅年」であった1998年頃は、1991年のバブルの崩壊による影響を受け、土地資産額の大幅減少により、売却が減少するなど不動産市況が低迷していた時期でした。(※1)当時「ハゲタカファンド」と呼ばれる外資系ファンドが不良債権を多く(バルクで)買い取っており話題になりました。(※2)
筆者の実体験では、大手ファンドが筆者の勤めている不動産会社が所有するマンションをまとめて購入した例もありました。
また前回の「寅年」は2010年でしたが、ちょうどその頃はリーマンショックからの立ち直りの兆しも見えてきました。(※3)その後2012年に安倍政権が発足し、日銀の金融緩和政策が功を奏し世界中から大量の資金が大都市圏に流入し不動産価格が上昇トレンドに向かいました。(※4・5・6・7)
そして今回の「寅年」における不動産業界における現況は、かつての「寅年」のような「金融危機」ではなく、新型コロナウイルスという未曽有の「見えない敵」との対峙という状況となっている訳です。
春以降いち早く景気回復軌道に乗る国内ホテル業界?
様々な経済の動きの中でキーワードとなるのが「先行指標」です。例えば原材料などの「企業物価」が上昇トレンドとなるとその先に起こる事は最終価格の上昇です。
例えば小麦粉が上昇すればパスタが上昇するように、鉄鉱石が上昇すると鉄筋鉄骨もその先に価格が上昇する事は容易に予想されます。
最近の事例では、新型コロナウィルスの感染蔓延により外出自粛等があるものの、徐々にですが、鉄道利用客数の増加が期待される事から鉄道株などが上昇傾向となっています。(※8)
これはあくまでも一般論ですが、例えば東京から大阪への移動が増えれば運賃から宿泊代、現地の飲食などサービス業界で消費される金額も増えると考えられます。
また、ウィズコロナ時代において電鉄系不動産会社などがホテル事業に力を注ぎ始めています。(※9)
近年のホテル事業は観光・ビジネス利用のみならず、大手老舗ホテルでも実施されている一か月単位などでの「長期滞在」型のホテル利用もあります。
実際に筆者が東京や大阪のワンルームマンション用地について取材したところ、本来であればワンルームマンションが建設されるような場所にホテル計画が散見されました。
一例で言うと、大阪の心斎橋駅周辺、東京で言うと、浅草などインバウンドが多く訪れたエリアです。
筆者の見解としては人の流れ、ホテルの需要喚起に伴い、ビッグターミナル駅に近いワンルームマンション用地は春以降、再びホテル業界との競合戦になる可能性を秘めていると感じています。
金利の動向とその影響は?
2012年のアベノミクス以降、金融緩和政策が続き、特に2016年以降は日銀に預ける当座預金の一部にマイナス金利を適用するという、正に異次元の金融緩和政策が続き現在に至っている訳ですが、ここにきて長期金利が上昇の気配を見せ始めています。
これは米国の金融緩和政策の影響も大きく、米国が他国よりもいち早く経済が復活し消費を押し上げ物価も上昇し、しかし給与所得も一定額上昇している背景からいわゆる「よいインフレ」と言われる中での金利上昇となっています。(※10)
日本の長期金利は日銀による公開市場操作により0.25%近くになると日銀が長期国債を大量に買い込み、金利の上昇を抑えるという手法を使っていますが、(※11)春以降、日米金利差が拡大すればその先に起こる事は円安です。円安になるということは輸入資材関係も含めた資源価格の上昇に影響を及ぼしますのでマンション価格にも影響が及んでくることが想定されます。
2022年春以降も「超低金利」が「低金利」になる程度の変化はあるかもしれません。
岸田政権による賃金アップは広がるか
2022年春以降は岸田内閣による総額100兆円を上回る予算が執行され実態経済にその効果が徐々に反映されてきます。
つまり公共工事はもとより民間活力の増強により消費が拡大すれば、その先に岸田内閣が推し進めている経団連を始めとする多くの団体に進言している給与所得の上昇が期待されます。
給与所得が上昇すればマンション価格や家賃の上昇などにもつながってくる可能性を秘めています。
過去に米国においても景気回復により住宅需要がいち早く回復したため、住宅市場の回復により管理費や維持費などのランニングコストや固定資産税なども上昇する結果となり、物件のオーナーは賃料引き上げなどの改定をせざるを得ない状況となりました。
このように就業者の収入が上がった結果、家賃の値上げにも付いて来られたということが実際にありました。(※12)
同じように日本国内においても不動産賃貸物件の賃料アップには民間企業による所得アップが大切なポイントとなると考えられます。
春以降も続く首都圏、新線・新駅・再開発
2021年には東京で世界的なスポーツの祭典が開催されました。
この世界的なスポーツの祭典の開催前は「開催後に不動産価格が下がるのではないか」、「東京のマンションが値下がりするのではないか」など様々な憶測がささやかれました。
しかし筆者とつながりのあるいくつかの不動産会社にヒアリングをしたところ、「2022年、年明け以降も不動産投資の需要は衰える気配はなく、販売も非常に堅調に推移しているのが現状」と回答する会社がほとんどでした。
新型コロナウィルスの地価への影響は大きい
国土交通省から発表された2021年7月1日現在の基準地価を見ると、東京都区部の地価は住宅地で0.5%の上昇、商業地では0.3%の下落となりました。
住宅地は昨年の1.4%の上昇から上昇率は縮小し平均で下落のエリアはありませんでした。
商業地は前年の1.8%上昇から0.3%の下落となり、商業地の方が新型コロナウィルスの影響が出ていることが分かります。
アベノミクス発足以来、地価上昇が続いてきましたが、新型コロナウィルスの影響で地価上昇率の縮小、またエリアによっては下落などの影響が出ていました。
東京都区部の地価変動率の推移
2020 | 2021 | |
住宅地 | 1.4% | 0.5% |
商業地 | 1.8% | △0.3% |
<国土交通省「都道府県地価調査」よりオフィス野中作成>
しかし直近で発表された国土交通省の地価LOOKレポート(2022年1月1日時点)で見ると、東京都の調査地点では下落地点が4地点減少し、横ばい地点が2地点増加、上昇地点が2地点増加するなど、徐々に地価上昇の兆しが垣間見えてきました。
筆者とつながりのあるいくつかの不動産会社にヒアリングをしたところ、2022年春以降は各不動産会社もマンション用地取得については極めて積極的な姿勢を見せていくのではと期待されるので、駅近のワンルームマンション用地などは強含みで推移すると予想されます。
東京都の地価変動率区分の推移
2021年第3四半期 | 2021年第4四半期 | |
区分 | 2021年10月1日時点 | 2022年1月1日時点 |
上昇 | 8地点 | 10地点 |
横ばい | 8地点 | 10地点 |
下落 | 11地点 | 7地点 |
<国土交通省「主要都市の高度利用地地価動向報告~地価LOOKレポート~」よりオフィス野中作成>
供給戸数と販売戸数のギャップが拡大傾向へ
筆者とつながりのあるいくつかの不動産会社にヒアリングをしたところ、現在のワンルームマンション業界は非常に販売状況が好調のようですが、そのユーザーは一般のサラリーマンから相続対策で購入する富裕層、中小企業などの事業法人、さらに最近では外資系のファンドなどが積極的に購入しているそうです。
ワンルームマンションを取り扱う上場企業の決算報告書などを見ると、ファンドの購入の仕方は、部屋ごとという単位ではなく、1棟まるごと、もしくはまとめて10棟以上などの大口契約も珍しくないようです。
もともと首都圏の新築ワンルームマンションは年間供給6,000戸前後のマーケット(※13)ですが、そこにファンドが大量に投資をはじめると、一般のエンドユーザーに行き渡る戸数が減る可能性があるという事です。つまり春以は降新築ワンルームマンションの「品薄状態」が発生する可能性を帯びていると考えられます。
転入超過人口の動向と住宅需要
新型コロナウィルスの影響は東京の人口の動向にも及んでいます。
東京都は転入超過人口が多く、2019年には約8万人にも及びましたが、2021年の転入超過人口は5,433人と新型コロナウィルスの影響もあり減少しました。
東京都だけの動向を見ると大きく転入超過人口が10分の1以下という結果になりました。しかし首都圏全体で見ると2019年の148,783人から2021年は81,699人と45%のみの減少となっています。これはテレワークが浸透し、東京都の周辺部などに移住する人が増加している事もあり、埼玉・千葉・神奈川県などは逆に転入超過人口が増加している事も要因と考えられます。
ただし東京都の実施している「テレワーク実施率調査(※14)」によると、緊急事態宣言中のテレワーク実施率はおおよそ60%以上ありましたが、緊急事態宣言終了後は50%台に縮小しています。つまり新型コロナウィルスが収束すればテレワーク率も縮小が進み、再び東京都への転入超過人口が増加する可能性もあります。また転入超過人口が埼玉・千葉・神奈川県などで増加していますので住宅需要も増加していると考えられます。東京都周辺の交通利便性の高いエリアの住宅需要も持続する可能性もあります。
首都圏の転入超過数(2021年)
エリア | 2019年 | 2020年 | 2021年 |
埼玉県 | 26,654人 | 24,271人 | 27,807人 |
千葉県 | 9,538人 | 14,273人 | 16,615人 |
東京都 | 82,982人 | 31,125人 | 5,433人 |
神奈川県 | 29,609人 | 29,574人 | 31,844人 |
合計 | 148,783人 | 99,243人 | 81,699人 |
<総務省「住民基本台帳人口移動報告」よりオフィス野中作成>
緊迫するウクライナ情勢が建築費に与える影響
2022年2月24日、ロシアがウクライナに侵攻しました。戦争はいつの時代でも同じ人間としてとても悲しい事です。
筆者の考察として、今回の戦争により世界的なエネルギー大国であるロシアからの天然ガスや原油、さらに穀物などの供給にも影響が出てくる可能性があり、当然の事ながら日本国内の経済活動にも影響が及ぶ恐れがあると考えています。
世界的な物価上昇に加え、さらに円安、原油高となると、特に日本においても建築費などのコストアップにつながる可能性もあると思われます。
このように2022年春以降も様々な事象が予想されますが、ここで大切な事は、「不動産投資は長期の投資」ですので目先の出来事に翻弄されないで、どっしりと腰を据えて長期的なスタンスで見る事ではないでしょうか。
(※1)国土交通省 バブル崩壊後20年の不動産市場
https://www.mlit.go.jp/statistics/content/001375435.pdf
(※2)サンデー毎日 2021年 2 月 7 日号
https://mainichibooks.com/sundaymainichi/cat228/2021/02/07/post-49.html
(※3)一般社団法人不動産適正取引推進機構 2000年代の不動産業
https://www.retio.or.jp/research/pdf/cen_003.pdf
(※4)産経新聞 2020年12月5日
https://www.sankei.com/article/20201205-NLPYPHAM25MKXOQISPFV22N5LM/
(※5)国土交通省 令和4年2月28日発表
<不動産価格指数(住宅)(令和3年11月分・季節調整値)> <不動産価格指数 (商業用不動産)(令和3年第3四半期分・季節調整値)>
https://www.mlit.go.jp/common/001465566.pdf
(※6)国土交通省 公示地価 主な都市における価格の推移①住宅地の「平均」価格
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/content/001391271.pdf
(※7)国土交通省 公示地価 主な都市における価格の推移②商業地の「最高」価格
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/content/001391272.pdf
(※8)国土交通省 旅客の輸送機関別輸送量・分担率の推移
https://www.mlit.go.jp/common/000232360.pdf
(※9)日本経済新聞 2021年8月2日 ※なお、筆者が取材した内容も加味し執筆を行っております。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC022VW0S1A800C2000000/
(※10)日本貿易振興機構(ジェトロ)1月の米消費者物価、前年同月比7.5%上昇、約40年ぶりの高い伸び 2022年2月15日
(※11)日本経済新聞 2022年2月14日
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB131RZ0T10C22A2000000/
(※12)日本総研 ミレニアル世代が米国の住宅需要を下支え
https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=101910
(※13)株式会社 不動産経済研究所 2021年上期及び2020年年間の首都圏投資用マンション市場動向
https://www.fudousankeizai.co.jp/share/mansion/474/md20210811.pdf
(※14)東京都 テレワーク実施率
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2022/02/04/17.html
著者紹介
野中 清志(のなか きよし)
株式会社オフィス野中 代表取締役 住宅コンサルタント
マンションデベロッパーを経て、2003年に株式会社オフィス野中を設立。
首都圏・関西および全国でマンション購入に関する講演多数。内容は居住用から資産運用向けセミナーなど、年間100本近く講演。
最近の主な著書・連載等
「売れる」「貸せる」マンション購入法 週刊住宅新聞社
「ワンルームマンション投資法」週刊住宅新聞社
「お金」見直し応援隊 日経BPセーフティジャパン(Web) 他多数
テレビ出演等
TOKYO MX TV他「ビジネス最前線 不動産による資産活用の今 」(2016年3月)
BS12〔TwellV(トゥウェルビ)〕「マンション投資 成功へのセオリー」(2014年12月)
「海外投資家も注目する東京の不動産」(2013年11月)
他ACT ON TV 等多数