【第3回】不動産投資今昔物語 ~昔と比べてワンルームマンション投資がいかに始めやすくなったか~
2021年に東京国際展示場駅近くのビッグサイトで開催された「資産運用EXPO」にて不動産投資セミナーに招かれて講演させて頂きましたが、コロナ禍にも関わらずのべ7,000人近くの方が来場したそうです。
会場では不動産投資のみならず、太陽光発電、株式、FX、他多くのブースが建ち並び20代30代の比較的若い層の方々で、例年より少ないとは言え、そこそこの盛況感がありました。
私が感じたのは若い方々の「投資意欲」です。昔はこのような大規模な資産運用向けフェアはそもそも存在していませんでした。(居住用の住宅としての大規模イベントはありましたが)。資産運用の世界も昔とはその様相が明らかに変わってきていることが分かります。
ではどう変わってきたのでしょうか。
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昔は高額所得者が主な顧客層であった
筆者はかれこれ40年近く不動産業界の変化を目の当たりにしてきました。
ちょうど40年前というとバブルが起こる数年前で、不動産業界の様子は天気に例えるならば「どんより曇った状態」で売れ行きも決して好調とは言えない状況でした。このような中でもスカイコートほかなどいわゆる投資用ワンルームマンション専門業者・ファミリーマンションもワンルームマンションも販売する大京など投資用不動産市場の規模は極めて小さかったと言えます。景気がさほど良くない中、投資用ワンルームマンションは「売れていた」というよりは積極的な営業によりむしろ「売っていた」という感覚の時代であったと思います。
筆者も当時は大京の営業マンでしたが、見込み客を見つける方法はいわゆる「電話営業」が主でした。電話をかける対象はいわゆる高額所得者で、職種は医者、弁護士、税理士、不動産鑑定士、弁理士、などのいわゆる士業、さらに大学の教授、予備校の講師、中小企業のオーナー、上場企業を中心とした超一流企業の管理職・役員、さらにプロスポーツ選手、芸能人など多岐に渡りました。当時の私の顧客も思い返してみると、年収が1000万円以下の方は皆無で、大半の方は年収軽く2000万円を超えている方が主流でした。当時は世の中に高額所得者がこれ程多くいるのかと驚いた記憶があります。当時私のお客様で代々木ゼミナールの講師の先生が数人いましたが、現在の水準でも驚くような高額所得の先生でした。
なぜ、当時の不動産投資業界のお客様はこのような富裕層が多かったのか
これには二つの大きな要因があります。
一つ目は当時は個人の所得税住民税が極めて高く、読者の皆様からすると信じられないかもしれませんが、1980年代の所得税の最高税率は70%、住民税は18%と何と所得の9割近くが税金という極めて税負担の重い時代だったわけです。ちなみに現在の最高所得税率は所得税が45%、住民税はほぼ10%となっています。
ではこの所得税、住民税と高額所得者によるマンション投資はどのような相関関係があったのでしょうか。
その理由のキーワードは不動産税制による所のいわゆる「損益通算制度」と言われるものです。投資用にマンションを購入する事により、生み出される家賃収入から投資系ローンの利子、当時は建物部分だけでなく、土地部分のローンの利息も損金算入可能な時代でした。さらに建物の減価償却費、管理費、修繕費、固定資産税、都市計画税などの租税公課も家賃収入から差し引く事ができ、不動産所得の赤字を作る事により、所得税を減らす事ができ、さらに翌年の住民税の課税額も減額できるという制度でした。
つまり当時の不動産投資はいわゆる節税対策(タックスベネフィット)が主流であり一般的な中間層のサラリーマンにはほとんど向いていないという投資対象であったという事です。
バブル期のローン金利は高かった事も理由
二つ目の理由としては、当時のマンション投資は借り入れをする際のローン金利が極めて高く、毎月のローンと家賃の差額がとても大きかった事です。
当時は金利がとても高く、2000万円のワンルームマンションを35年ローンで金利が7%とすると毎月返済額も13万円近くなる訳です。
つまり金利が高い事により家賃収入とローンの差額が極めて大きくなり、一つならまだ何とか所有できても、2つ3つ持つとなると家賃収入とローンの差額が毎月20万円近くなる訳です。これでは普通のサラリーマンが持つのは極めて困難を極める訳です。
昔のワンルームマンションは立地は極めてよかったのですが、一般のサラリーマンからすると、いわゆる「高嶺の花」の対象であり都心型ワンルームマンション(千代田区、港区、中央区)などは特にブランドにこだわる富裕層からは手に入れたい不動産の一つとして世の中に定着した時代とも言えます。
2000年前半から一般のサラリーマンでも持ちやすい時代に
投資系ワンルームマンション業界の潮目が変わり始めたのはバブル崩壊後、2000年前後の不良債権処理が一巡した頃からです。2000年前半からいわゆる一般のサラリーマンの方々でも持ちやすいワンルームマンションが世の中に多く出現し始め、ワンルームマンション専門業者も急激に増えた時代でもありました。
リーマンショック後も様々な動きがありましたが、2012年の安倍政権発足により、さらに異次元の金融緩和政策により不動産市場に大量の緩和マネーが流入し、一般の方でも手が届きやすいワンルームマンションも多く出現しています。
もちろん、現在の不動産投資市場においてもバブル期を越える様な超高額ワンルームマンション、5,000万円以上1億円以内の物件も散見される時代ですが、そのような超高額ワンルームマンションは海外の超富裕層か国内における富裕層によるマンション購入による相続対策の一環として「資産圧縮」を目指すケースも多くなっています。
現在は東京都内、川崎、横浜においては一般のサラリーマンの方が持ちやすい廉価なワンルームマンションも多く出現しています。
現在の主要購入者層はズバリ中間層のサラリーマンの方々です
ここで言う中間層とはおおよそ年収が500万円から600万円の会社員の方を指します。
現在投資用ワンルームマンションが世の中に広く浸透・流通している最大の要因はこの中間層が主流である事により、株式市場におけるいわゆる「出来高」が増大しているような現象が起きているという事です。「国税庁の階級別年収の推移」の変化を見ても平成25年と比べて平成30年は何と250万人も増えています。
ではなぜそれだけ増えたかと言うと、最大の理由は歴史的に稀に見る「金融緩和政策」による投資系ローンの大幅な金利低下が挙げられます。
冒頭に述べたとおり40年前の投資系ローン金利は7%から8%でしたが、現在は1%台から2%前半で推移しています。さらに昔のワンルームマンションとは違って面積も広くなり、専有部分のスペックも極めてクオリティが高まり、共用部分におけるデザイン性、さらに建物のフォルムも含めて貸すには惜しいほどの水準が上がってきていますので、その結果ワンルームマンション一戸当たりの家賃収入も高額化してきています。
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昔は20%必要だった自己資金も現在では小額で持てる
ちなみに40年前は最低でも自己資金が10%、普通は20%の自己資金が必要でしたが、現在は自己資金の少ない中間層の方でも所有できる時代が到来しています。これは金融機関から見ると収益還元法に基づき一定の家賃収入を得られる不動産に対しその担保評価が昔と比べて相対的に高まっている事がその要因の一つと考えられます。こうした事から実際に自己資金が少なくても、マンション投資を始める方が多くなってきている事が現状と言えます。まさにこのコロナ渦においても、投資用マンションの売れ行きも好調な事は、こうした金利を始め金融・不動産業界の変化が要因ともなっています。
このように現在の不動産投資市況は購入者にとって極めて恵まれた環境である事が分かります。但し立地、建物のクオリティ、会社の信頼度など大切なポイントがありますので、このような状況の中でご自身の資産形成について真剣に向き合う年として、今だからできる事にチャレンジする事が大切と考えます。
著者紹介
野中 清志(のなか きよし)
株式会社オフィス野中 代表取締役 住宅コンサルタント
マンションデベロッパーを経て、2003年に株式会社オフィス野中を設立。
首都圏・関西および全国でマンション購入に関する講演多数。内容は居住用から資産運用向けセミナーなど、年間100本近く講演。
最近の主な著書・連載等
「売れる」「貸せる」マンション購入法 週刊住宅新聞社
「ワンルームマンション投資法」週刊住宅新聞社
「お金」見直し応援隊 日経BPセーフティジャパン(Web) 他多数
テレビ出演等
TOKYO MX TV他「ビジネス最前線 不動産による資産活用の今 」(2016年3月)
BS12〔TwellV(トゥウェルビ)〕「マンション投資 成功へのセオリー」(2014年12月)
「海外投資家も注目する東京の不動産」(2013年11月)
他ACT ON TV 等多数