円安の進行と経済・不動産投資市場との関係

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2022年3月からの急激な円安により、各メディアで「円安」という言葉が飛び交っていましたが、2022年11月に為替相場は円高傾向を見せ始めました。

そして、2023年1月に長期金利の変動許容幅が0.25%から0.5%程度に引き上げられ、低金利・円安状態から一転、金利上昇・円高傾向に情勢が変わってきています。

今回の記事では円安の仕組みと要因を読み解きながら、2022年からの円安による影響を解説するとともに、2023年の金利上昇の影響と不動産投資の考え方について解説していきたいと思います。

※本記事は2023年1月時点の情報に基づいて作成しております。

2022年3月からの急激な円安

2022年3月頃から円安が急激に進み、9月は1ドル140円台、10月には一時150円台まで下落し32年ぶりに円安水準を更新しました。
(※)ただし、2022年11月・12月は1ドル130円台と回復傾向を見せています。

なぜこのような円安が起きているのか探っていく前に、円安のメリット・デメリットを踏まえつつ、改めて円安についてご説明しておきたいと思います。

 

円安とは

アメリカドルなどの外国通貨に対する円の相対的価が低くなることを「円安」といいます。

例えば1ドル100円と1ドル120円を比較した場合、1ドル100円なら、100円で1ドルの物が買えますが、1ドル120円になると20円多く出さないと買うことができません。

つまり、1ドル100円から120円になると1ドルの物を買うにはより多くの円が必要になるため“円の価値が下がった状態”になります。

この例のように1ドル100円が120円になった場合、1ドル100円だった時よりも円安になったといえます。

 

円安のデメリット

円安のデメリットとしてあげられるのは、海外から購入する物の価格が上昇することです。輸入価格が上昇し、日本が輸入している素材、エネルギー、食品をはじめ多くの商品で同等の利益を上げるのであれば、値上げを余儀なくされることになるでしょう。

 

円安のメリット

円安のメリットは、アメリカドルを日本円に替えたとき、円安の分だけ多くなります。そのため、日本の企業がアメリカで稼いで、アメリカドルを日本円にすれば日本では円安の分だけ利益を増やせます。

アメリカで100ドル稼いだお金を日本円にすると、1ドル100円なら10,000円ですが、1ドル110円なら11,000円になる訳です。つまり、稼いだお金は同じでも円安の影響で利益が増えるという訳です。

また、円安は自動車メーカーなどの輸出企業にとって有利といえます。仮にアメリカに商品を輸出する場合について考えてみましょう。

円安の場合、輸出商品の価格をアメリカドルに換算すると、アメリカドルの輸出商品の価格が下がりエンドユーザーが買いやすくなり、消費量が増えます。

もちろん、円安によって全ての輸出商品の価格がすぐに下がるという訳ではありませんが、傾向としてはよく見られるようです。

結果、需要が増え、より多くの輸出が求められるようになり、輸出企業の販売量や売り上げが上昇する傾向があります。

実際に円安の追い風を受け、某大手自動車メーカーでは2022年3月期の決算で営業収益は過去最高を記録しています。

ではなぜこのような円安が起きたのか、要因を探ってみましょう。

2022年3月からの円安の要因

結論から申しますと、私は円安の主な要因には、「日本とアメリカの金利差」「貿易収支の赤字」「日本の賃金低水準」の3つがあると考えています。下記で一つひとつ解説していきます。

 

要因-1日米の金利差が拡大

要因としては第一に日本とアメリカの金利差の拡大が挙げられます。

アメリカでは、2022年3月に0.25%幅の利上げにはじまり、その後も何度かの利上げを経て、2022年12月には7度目となる利上げが行われました。

さらに、2022年12月には、米債券市場で長期金利の指標になる10年物国債利回りが3.88%の高水準を付けました。

一方、日本においては景気回復の足取りが遅く、2022年12月の長期金利の変動許容幅が0.5%程度引き上げ決定されるまでは、日銀の低金利政策継続のアナウンスと共に金利は低水準で推移していました。
(※)2023年1月時点では、長期金利が0.505%上限とする0.5%程度を一時上回りました。

このように日本とアメリカの金利差が拡大すると、「金利が高く資産運用に有利なアメリカドルを買い」「金利が低い日本円を売る」動きが活発になり、円安の状態に陥ってしまいます。今回の円安が続いた要因は、このような日本とアメリカの金利差拡大にあると考えます。

 

 円安の要因-2 貿易収支の赤字

二つ目の要因としては「貿易収支の赤字」が挙げられます。

ロシア・ウクライナ情勢等によるエネルギー価格の上昇、さらに小麦粉などを始めとするさまざまな食材などの輸入額が増大しています。輸出額が追い付かず2022年度貿易収支は、過去最大の赤字となりました。

ではなぜ、貿易収支の赤字が続くと円安になるのでしょうか。貿易収支が赤字になるということは、輸出額より輸入額の方が多くなるということです。

輸入額が増えるということは輸入代金を支払うために、「より多くの日本円を売って、アメリカドルに替える動き」が活発になり、円安に拍車をかける要因につながっていきます。

【輸出額より輸入額が拡大すると…】

 

円安の要因-3 日本の賃金の低水準さ

三つ目の要因としては、日本の一般労働者の賃金が大きく上がっていないということです。2001年の一般労働者の賃金(男女計)は305,800円/月に対し、2021年では307,400円/月。わずか1,600円/月しか上がっていないのです。(※1)

そのため、日本では消費・購入能力が上昇しなかった訳です。購入能力が上がらないということは、物価も上げられない、物価が上がらなければ金利も上げられない、金利を上げられなければ円の価値も上がらないということです。

【日本の一般労働者の賃金推移(男女計)】

(※1)出典:厚生労働省「令和3年賃金構造基本統計調査の概況 一般労働者の賃金」https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2021/dl/13.pdf

賃金がスムーズに上がっていかない状態ではありますが、2023年1月には某大手自動車メーカーの労働組合が20年で最高水準のベースアップを要求しました。賃金の絶対水準が低い若手は、昨今の物価上昇の影響を受けやすいことが今回の要求の要因のひとつになっているようです。

また某大手アパレル製造小売メーカーでは、3月から国内従業員の年収を最大4割引き上げ、人件費は約15%増が見込まれているようです。このように、国内企業で賃金アップの動きが見えつつあります。

 

過去にはジャパンマネーが世界を席巻した「ドル安・円高時代」も

1980年代前半は経済の主役が「重厚長大」(重化学工業等)産業であり、輸出に強い業界でした。

ですが、1985年のプラザ合意以降はドル安円高が加速し輸出価格上昇により、輸出が減少しました。(※2)国内景気は低迷し、自動車産業をはじめとした日本の製造業は大きな打撃を受けました。

その後、円高不況に対する懸念から、日銀は低金利政策を継続。企業は円高メリットを受けはじめたこともあり国内景気は回復に転じた。しかし、その後の低金利と金融機関による過度の貸出の結果、不動産・株式などの資産価格が高騰し、いわゆるバブル景気が起こることになりました。

これにより、日本円の価値が高まったことで、日本の某大手損害保険会社がゴッホの「ひまわり」を53億円で落札したり、某大手デベロッパーがニューヨークの代表的なビルのひとつ「ロックフェラービル」を買い取ったりと、当時はジャパンマネーが世界を席巻していたと言えます。

【2020年 円の対ドル為替レート推移】

(※2)出典:経済産業省 通商白書2020 第Ⅱ-2-3-15図 円の対ドル為替レートの推移https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2020/2020honbun/i2230000.html

円安が与える不動産市場への影響

円安が不動産市場へ与える大きな影響としては、中国人投資家をはじめとする海外投資家の動きが活発になることです。円安のメリットを活かしワンルームマンション等を安価に購入し、収益性の高い不動産投資を進めようとしています。

それだけではなく、円安が続けば輸入資材関係の価格が上がり、建築費が上昇した結果、マンション価格そのものにも大きな影響を与えます。

 

円安で海外からの魅力を増す日本不動産

円安傾向は、日本の不動産投資業界にどのような影響を与えているのでしょうか。

昨年、都心10億円マンションなどの「海外の個人投資家によるマンションの現金一括購入」というニュースが、メディアで取り上げられていました。特に動きが速いのは、1億円前後の都内の高層マンションの区分所有で、中国本土・香港・台湾の個人投資家が購入しているようです。

その背景には、「円安メリットによる不動産を購入し、転売して利益を得たい」という投資家達の大きな期待があると私は推察します。

 

マンション価格への影響

今後の動向としては、円安が続けば輸入資材関係の価格上昇は余儀なくされ、マンション建設における「原価の上昇=価格の上昇」は否めません。

しかし、原価となる建築費などが上昇しても現在販売しているマンションの価格にすぐに反映されるのではなく、これから建設されるマンションが販売される時期になると考えられます。

なぜなら、これから建設されるマンションは国内物価・企業物価が上昇した価格で発注されるため、建築費を代表にさまざまな費用が高くなります。

高くなった物価で造られるマンションが販売されるようになると、マンション価格を上げざるを得ない状況になるでしょう。

つまり、これまでどおり円安が継続するようであれば、現在販売しているマンションはおよそ1年前後に完成するマンションと比べて相対的に「割安感がある」ことが分かります。

このように、円安が続くとマンション価格にも大きく影響が及ぶ状態となります。

低金利から一転、長期金利0.5%程度へ

日銀は、2022年12月に長期金利の変動許容幅を0.25%程度から0.5%程度へ引き上げました。

それを受けてか、日銀が金融緩和政策の縮小が予測され「日本円買い」「アメリカドル売り」が広がりを見せ、2022年10月には一時1ドル150円台だったのが2023年1月には1ドル129円となり、為替相場は円高傾向となっています。

この状況は不動産投資にどのような影響を与えるのか推察していきたいと思います。

 

長期金利上昇・物価上昇による影響

長期金利上昇・物価上昇による影響としては、不動産投資用ローン固定型の金利上昇、新築でマンション購入する場合は、物価上昇に伴うマンション価格の上昇が考えられます。

不動産投資用ローンは変動型が一般的です。変動型は長期および短期金利をもとに決定されており、場合によっては変動金利が上がってしまいます。

ただし、不動産投資用ローンの変動金利型の場合は、急に金利が上がっても返済額が膨らんで困らないように、「5年ルール」と「1.25倍ルール」という消費者を保護するためのルールがあります。

「5年ルール」は、本来、金利上昇にあわせて毎月の返済額が増えるのですが、5年間は一定額のまま変わらないルールです。ただし、5年後には金利に合わせて返済額が見直されます。

「1.25倍ルール」は、5年ごとに返済額が見直される際、上限額は今までの返済額の1.25倍までに抑えるというルールです。そのため、金利が上昇したとしても返済額が急激にアップすることはありません。

シンクタンクの調査などによると変動金利が上がるのはもう少し先で、今のところはそこまで神経質にならなくても良いようです。

ただし、変動金利が上がらないと保障されている訳ではないので、金融機関の金利や経済情勢については注視しておきましょう。

 

金利・物価上昇期の不動産投資のポイント

現在の長期金利は0.5%程度で過去の10年国債の金利から見てもまだ低金利圏と言えるのではないでしょうか。

だからこそ、こうした金利・物価上昇期においてはなるべく早い段階で物件を購入し、下記のような対策をとることでデメリットを最小限に抑えることが重要です。

・建築費が高騰する前に着工している物件を選ぶ
・金利が本格的に上がってしまう前になるべく早く不動産投資用ローンを組む
・金利上昇に強いと思われる物件を選ぶ

3つ目の対策は特に重要ですので下記で解説していきます。

 

金利上昇に強い投資用マンションの選び方

金利上昇に比較的強い投資用マンションとは、立地条件が良いので「空室リスクが低いため収益性が高い」マンションだと考えます。

入居者様が付いて家賃収入さえ途切れなければ、多少金利が上昇したとしても返済がそこまで圧迫されずに済むのではないでしょうか。

たとえば、ターミナル駅の駅近のワンルームマンションであれば、金融機関から「空室リスクが低く、収益性が高いという評価」を受けやすく、不動産投資用ローン面で優遇される可能性もあります。

【金利上昇に強い投資用マンションの主な条件】

・駅近で交通利便性、生活利便性が高い

・新線、再開発などにより将来性の高いエリアの物件

・長期に渡って、建物の管理が行き届いている

・最近の生活に沿った設備が充実している

これらの条件を満たす物件を考えたとき、考えられるのは3大都市圏で駅近、できれば新駅沿線上または再開発エリアに近い場所に位置するワンルームマンションが挙げられるのではないでしょうか。

 

マンション経営の安定性

一般的にマンション経営は、長期的に家賃収入を得ることを主な目的とした投資です。

経済情勢や海外情勢、為替や金利の変動があってもその影響で、家賃が急激に下がることは少ないです。

国内の土地に建物を建設し購入する方も日本人、住む方も日本人であれば、為替が円高になろうが円安になろうがマンションの賃料は大きな変動がない訳です。

入居者様が付いていれば、比較的安定した家賃収入を長期的に得ることができます。

これがマンション経営の大きな魅力と言えるでしょう。

まとめ

さまざまな投資商品の中でも不動産投資の強みは「すぐに為替の影響を比較的受けづらい」という点です。

なぜなら為替レートは日々刻々と変動するのに対して、マンションの賃貸契約は原則2年更新だからです。つまり外的要因による影響を受けづらく、入居者様が付いていれば比較的安定した家賃収入が得られるといえます。

次に抑えておきたいポイントは“家賃の上昇”についてです。諸外国と比べて日本の賃金水準が低いことは岸田内閣も十分に認識していると思います。

そこで、経団連を始め経済団体に給与引き上げの呼びかけを強化し、もし給与が上がるようなら、その影響で家賃の上昇につながることも期待できるのではないでしょうか。

先述した通り、某大手アパレル製造小売メーカーは3月に国内従業員の年収を最大4割アップ。某大手自動車メーカーの労働組合は、過去20年で最高水準のベースアップを要求しており、日本の一般労働者の賃金も上昇傾向になるかもしれません。

今回は為替の動き、金利・物価上昇期の不動産投資のポイント、マンション経営の安定性などについて執筆させていただきました。今後の皆様における不動産投資の参考にしていただければ幸いです。

 

著者紹介

野中 清志(のなか きよし)
株式会社オフィス野中 代表取締役 住宅コンサルタント
マンションデベロッパーを経て、2003年に株式会社オフィス野中を設立。
首都圏・関西および全国でマンション購入に関する講演多数。内容は居住用から資産運用向けセミナーなど、年間100本近く講演。

最近の主な著書・連載等

  「売れる」「貸せる」マンション購入法 週刊住宅新聞社
「ワンルームマンション投資法」週刊住宅新聞社
「お金」見直し応援隊 日経BPセーフティジャパン(Web) 他多数

テレビ出演等

  TOKYO MX TV他「ビジネス最前線 不動産による資産活用の今 」(2016年3月)
  BS12〔TwellV(トゥウェルビ)〕「マンション投資 成功へのセオリー」(2014年12月)
「海外投資家も注目する東京の不動産」(2013年11月)
  他ACT ON TV 等多数

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